世界はいつもおなじ色だった。

昨日より今日が、今日より明日が、という希望的観測に充ち満ちて、塗り固められた毎日である。駆け上るエスカレータ。駆け下りる石段。ころがり落ちたのは風景ではなく僕だった。僕、だけ だった。


たとえば、心臓に近いところにある痛みが朝を呼んだとき。欲しいと思ったものを手に入れることだって容易くない。

たとえば、水槽にちりばめられた微生物の芥を眺めるとき。窓辺の金魚に僕は、なれない。


時計の秒針から始まる過去。そんなところに立っている君。君は少女だ。いつだってどうしようもなく少女だ。それでいて美しい。それなのに愚かしい。なぞった言葉の意味を思って陶酔するほど、君のなげうった音はかつてのまばゆさを忘れていく。
それでも踊るのは、赤い靴より星座を食べたがったあの子のためだ。


さあ、蝶々が瑠璃色だった頃、午後のドールに恋い焦がれていた頃、どこか遠い上の方から綺麗な雨をそそがれていた頃、清らかで冷たい微睡しか知らなかった頃に、


葬列を、
     ×あたえて。
     ○こわしてみよう。



だって世界は――色だから、ね。



星の鯨幕

(せのじゅんに、星列) 140508

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